2012年10月19日金曜日

絵本のすすめ55-だれにもいえない















  わたしはこのごろ、教室のみんなの顔を一人ひとり見ることがある。一人ひとりまるでちがう顔をしている。そのことにおどろく。
   わたしたちは、べつべつの日に、べつべつの病院で生まれたんだ、と思う。
   生まれたあと、四年生になるいままで、それぞれがまったくちがう家で育ってきた。一人ひとり、すきなものもちがうし、得意なものもちがう。なにもかもちがう三十一人がこうして一つの教室で、毎日同じ勉強をしているのだ。

   そして先生からは「みなさん」と、ひとまとまりに呼ばれている。呼ばれると、とたんに三十一人がひとつのかたまりになる。
   「みなさん」のなかにいるのは安心だ、と思うこともある。
   「みなさん」というのが、わたしのことのような気もするし、わたしのことじゃないような気もするから。まるで背の高い草のなかに隠れているような気もちになるから。

   でも。

 













   岩瀬成子作、網中いづる絵の「だれにもいえない」(毎日新聞社)は、はじめて恋や友情にふれた少女の揺れるこころをみずみずしく描いた作品です。

   網中いづるさんの絵に魅かれました。