2012年10月26日金曜日

乱読のすすめ69-ドビュッシーと金子みすゞ

 

 










   「ドビュッシーとの散歩」(中央公論新社)は、ピアニスト・青柳いづみこさんが、フランス近代の大作曲家、クロード・ドビュッシーのピアノ曲に寄せて、ご自分のおもいを綴った、おしゃれな短文集です。
   ドビュッシーのピアノ曲でいちばん有名なのはなんといっても、「月の光」(ベルガマスク組曲の第三曲)。青柳さんによると、この曲のもとになったのは、フランスの詩人ヴェルレーヌの「月の光」だとか。
 
 お前の心はけざやかな景色のようだ、そこに 見なれぬ仮面して仮装舞踏のかえるさを、
 歌いさざめいて人ら行くけれど  彼の心とてさして陽気ではないらしい (堀口大學訳)

  …どうしてこの詩があの甘美な「月の光」になったのかよくわかりませんが、わたしの場合、「月の光」を聴くと、いつも思い浮かぶのが、金子みすゞさんの世界です。
 金子さんの詩の朗読で、もしBGMが流れるなら、ドビュッシーの「月の光」がとても合うとおもうのです。たとえば…♪♪

       『犬』

      うちのだりあの咲いた日に
      酒屋のクロは死にました。

      おもてであそぶわたしらを、
      いつでも、おこるおばさんが、
      おろおろ泣いて居りました。

      その日、學校でそのことを
      おもしろそうに、話してて、

      ふつとさみしくなりました


  「雪の上の足跡」(前奏曲集・第六曲)は、題名からもつぎの詩にぴったり…♪♪

   
      『積もった雪』 

      上の雪
      さむかろな。
      つめたい月がさしてゐて。

      下の雪
      重かろな。
      何百人ものせてゐて。

      中の雪
      さみしかろな。
      空も地面もみえないで。


   .また、「グラナダの夕」(組曲「版画」)で思い浮かぶのは…♪♪

      『木』

      お花がちって
      実がうれて、

      その実が落ちて
      葉が落ちて、

      それから芽が出て
      花がさく。

      そうして何べん
      まわったら、

      この木はご用が
      すむかしら。

  
  詩と音楽の感じ方は人それぞれ。とにかく、月の光のように、読む人の心を優しく映し出すのが金子みすゞさんの世界なのでしょう。