2012年10月29日月曜日

スーパー公務員


絵 鈴木周作










   10月27、28日の両日、札幌市において、「断ちきろう!貧困の連鎖を~許すな!金利引き上げ」をテーマに「第32回クレサラ被害者交流集会」が開かれ 、わたしも参加しました。

   3年前、自民党政権を追い詰め政権交代の流れをつくるうえで大きな役割を果たしたのが「反貧困」の大運動。その運動のきっかけを作ったのは、毎年この「交流集会」に結集する、サラ金被害と闘ってきた弁護士、司法書士や被害者の会の皆さんでした。

   2006年に金利引き下げの貸金業法改正を実現したあと、多重債務のおおもとにある貧困問題そのものに取り組もうということになり、生活と健康を守る会や全労連、連合など幅広い団体によびかけて、「反貧困」のネットワークを広げていったのです。

   札幌の集会で久しぶりにお会いしたのが、奄美市の福祉政策課の職員、禧久(きく)孝一さん。
   禧久さんは、長年にわたり、借金自殺を防ぎ、多重債務者の生活再建を支援してきました。
   2006年から2007年にかけて、マスコミが禧久さんの活動に注目。NHKの「にっぽんの現場」など多数のテレビや新聞で取り上げられました。また禧久さんは2007年、政府の「再チャレンジ支援功労者」にも選ばれました。当時、あるマスコミは禧久さんのことを「スーパー公務員」と表現しました。

札幌集会にて 右が禧久さん








   禧久さんは相談にきた市民をやさしく励まします。
   「債務整理をすれば人生はやり直せる。大事なのは、整理後の生活をどう再建するか。そのためには身体が健康であることが何より大事だよ」
   禧久さんにはたくさんの手紙が届きます。サラ金の借金で自殺寸前まで追い込まれ、禧久さんと出会い、命を救われた人たちです。わたしが見せていただいたある年賀状には「謹賀新年」のあとに、「私の命、助けてくれてありがとう。元旦」とだけ、書かれていました。
   禧久さんはきっぱりといいます。
   「救える命を救いたい。市民に寄りそって、幸せや生活再建を支えるのが、私たち公務労働者の仕事です」


映画「生きる」 








  黒澤明の映画で「生きる」という作品があります。主人公の渡辺(志村喬)は、市役所の市民課長をつとめる無気力な五十三歳の男です。しかし、自分が末期ガンであることを知り、人生の意味を求めてもがき苦しみます。渡辺が最後におもったのは、自分が生きた証をのこしたいということでした。
   渡辺は、自分もふくめ役所の中でたらい回しにしてきた市民からの陳情を取りあげます。汚いドブを埋め立てて公園をつくってほしいという要望です。渡辺は公園づくりに、のこされた命をかけます。役所の各部署をねばり強く説いてまわり、ようやく公園が完成したとき、渡辺は最後のときを迎えます。雪のふる公園でブランコにゆられ、「命短し、恋せよ乙女…(ゴンゴラの歌)」と口ずさみながら。

   この映画は、人が生きることの意味を問うた名作ですが、同時に、役所仕事への痛烈な批判もこめられていました。死に直面してはじめて住民のためにはたらく市職員、渡辺の姿は、どこか滑稽で悲しくもありました。
 しかし、禧久さんのように、命短くなくとも、市民のために一生懸命はたらく公務員もおられるのです。

 禧久さんは、「スーパー公務員」と呼ばれるのを嫌がり、「スーパーじゃなくコンビニ公務員ですよ。身近な相談相手ですから」と笑います。