作家ロイス・ローリーが、多感な少女時代の自分と父との思い出を、詩情ゆたかに描きだします。
だぶだぶのウールのシャツの下で膝をかかえこんで、リズは小さな声でささやいてみる。
だぶだぶのウールのシャツの下で膝をかかえこんで、リズは小さな声でささやいてみる。
「父さん、父さん。」
父さんって言うのは初めてみたい。
戦争に行って、長い間、家にいなかった父。
「父さん。」と、気軽に呼びかけることさえできない娘。
そんなふたりはいっしょにカラス狩りにでかけます。
リズはカラスを呼ぶカラス笛をもって、そして、父は、銃をもって―
父さんって言うのは初めてみたい。
戦争に行って、長い間、家にいなかった父。
「父さん。」と、気軽に呼びかけることさえできない娘。
そんなふたりはいっしょにカラス狩りにでかけます。
リズはカラスを呼ぶカラス笛をもって、そして、父は、銃をもって―
カラスが群れる荒涼とした丘に、リズが吹くカラス笛がひびきわたります。
“ わたしが丘をのぼっていくと、父さんが迎えてくれる。父さんが銃を使わなかったことはうれしかったけれど、ありがとうは言わなくていいとおもった。わたしのそんな気持ちを、父さんはお見通しだ ”
“ おはよう、さよなら、そしてわたしの全部の気持ちをこめて、もう一度カラス笛を吹いた。わたしはシャツのポケットに笛をしまって、ぶかぶかの袖から手をのばし、父さんの手をにぎった。
“ わたしが丘をのぼっていくと、父さんが迎えてくれる。父さんが銃を使わなかったことはうれしかったけれど、ありがとうは言わなくていいとおもった。わたしのそんな気持ちを、父さんはお見通しだ ”
“ おはよう、さよなら、そしてわたしの全部の気持ちをこめて、もう一度カラス笛を吹いた。わたしはシャツのポケットに笛をしまって、ぶかぶかの袖から手をのばし、父さんの手をにぎった。