2012年6月18日月曜日

絵本のすすめ44-カラス笛を吹いた日











   作家ロイス・ローリーが、多感な少女時代の自分と父との思い出を、詩情ゆたかに描きだします。

   だぶだぶのウールのシャツの下で膝をかかえこんで、リズは小さな声でささやいてみる。
   「父さん、父さん。」
   父さんって言うのは初めてみたい。
   戦争に行って、長い間、家にいなかった父。
   「父さん。」と、気軽に呼びかけることさえできない娘。
   そんなふたりはいっしょにカラス狩りにでかけます。
   リズはカラスを呼ぶカラス笛をもって、そして、父は、銃をもって―








   
   カラスが群れる荒涼とした丘に、リズが吹くカラス笛がひびきわたります。
   “ わたしが丘をのぼっていくと、父さんが迎えてくれる。父さんが銃を使わなかったことはうれしかったけれど、ありがとうは言わなくていいとおもった。わたしのそんな気持ちを、父さんはお見通しだ ”

    “ おはよう、さよなら、そしてわたしの全部の気持ちをこめて、もう一度カラス笛を吹いた。わたしはシャツのポケットに笛をしまって、ぶかぶかの袖から手をのばし、父さんの手をにぎった。