絵 金井英明さん コロコロコロと |
いまから十数年前、ドイツに一か月ほど滞在した時のこと。
フランクフルト中央駅で列車を待っていると、ホームの端で50代くらいのお父さんと、17、8歳の息子さんがいて、手を握り合っていました。息子が遠くの大学か仕事場へ旅立つのをお父さんが見送りにきている様子です。
列車が到着すると、お父さんが息子を抱きしめました。お父さんの目に涙があふれます。息子もお父さんの背中を撫でながら泣いていました。
いい光景だなとおもいました。ドイツは父と息子が人前で抱き合う国なんだと感動しました。
それを見てから、私も何かというと息子を追いかけて抱きしめるようになりました。相当、嫌がられましたが、抱きしめないよりはよかったのではないかとおもっています。
ドイツ訪問の前は、ドイツ人というと、理屈っぽくて陰鬱な印象を持っていましたが、滞在中に出会った人は、みんな情緒豊かで温かい人ばかり。論理より情の国ではないかと感じ、ドイツ人のことが好きになりました。
そのドイツが、脱原発を決定したのも、科学より倫理の判断です。
東電福島第一原発事故を受けてドイツはどうすべきか。メルケル首相は科学者たちの判断より、哲学者、宗教家、社会学者などで構成され原子力の専門家が一人もいない「倫理委員会」の判断を採用します。
その判断とは、原発はいったん事故を引き起こすと人間には手に負えないリスクがあり、廃棄物も人間には処理できない、したがって原発は人間の倫理に反するというもの。
この「倫理委員会」の公聴会で、社会学者のウルリッヒ・ベックさんが電力業界の代表にこう問いかけます。
「チェルノブイリ事故のあとも君たちは原発の運転を続けた。そのことを君たちは自分の子どもにどう説明するのか?」
「(原発を続けていることを)子どもにどう説明するのか?」ーいまを生きる私たち大人にとって最も重い問いかけです。
「(原発を続けていることを)子どもにどう説明するのか?」ーいまを生きる私たち大人にとって最も重い問いかけです。