宮崎 駿さん |
先週、函館と東京の移動時間などを利用して、今年の芥川賞受賞作二作を読みました。一生懸命書かれた作者には申し訳ないが、二作ともつまらなかった。若いころとちがって純文学はめったに読まなくなり、せめて毎年の芥川賞作品だけは目を通しておこうとおもってきましたが、もう今年でやめようかなと。
「本へのとびら」(岩波新書)で、アニメーション映画監督の宮崎駿さんは、つぎのように語っています。
「…それで、もう小説は読まなくなりました。なにがベストセラーになろうが、小説ははじめから忌避する感じで読まなかった。…流行りものを避ける傾向がありました。ベストセラーというのはしょせん文化の泡沫みたいなものだという意識があってね」
そういう宮崎駿さんをとらえたのが、児童文学の世界でした。
「児童文学は、そういう流行とは関係のない隅っこのところにあるということでしょうね…」
「本のとびら」は、宮崎さんが、みずからの読書体験、失敗をのべながら、おすすめの「岩波少年文庫」の紹介とともに、本や子どもへの思いを語る、「児童文学のすすめ」といったところでしょうか。「海底二万里」、「星の王子さま」「ドリトル先生航海記」「フランダースの犬」などなど…子どものころ読んだ懐かしい本に出会えます。
また宮崎駿さんの時代観と子どもたちへのおもいが熱く伝わります。最終章、「子どもたちへのエール」で、宮崎さんはこう述べています。
「児童文学はやり直しがきく話である。…ようするに『どうにもならない、これが人間という存在だ』という、人間の存在にたいする厳格で批判的な文学とはちがって、『生れてきてよかったんだ』というものなんです。生きててよかったんだ、生きてていいんだ、ということを、子どもたちにエールとして送ろうというのが、児童文学が生れた基本的なきっかけだと思います。…『子どもにむかって絶望を説くな』ということなんです」
独りよがりの絶望小説を読むくらいなら、児童文学(や絵本)を読んだ方がよほどまし。宮崎駿さんの意見に賛成です。