2012年3月10日土曜日

絵本のすすめ37-殺さない勇気

テイエリー・デデュー作 講談社 













   「ヤクーバとライオン」は、勇気とはなにかを問いかける一冊。アフリカの奥地の村。少年たちはある一定の年齢になると、ひとりでライオンを見つけ、槍で倒さなければなりません。そうしないと村で一人前の戦士として認めてもらえないのです。

   少年ヤクーバはライオンをもとめて野山をあるき、ついに一匹のライオンと出遭います。ところが、そのライオンはすでに傷を負い、立つこともできないほど弱っていました…。

ライオンの目は語りかけます。
   「おまえには、二つの道がある。わしを殺せば、りっぱな男になったと言われるだろう。それはほんとうの名誉なのか。もうひとつの道は、殺さないことだ。そうすれば、おまえにはほんとうに気高い心をもった人間になれる。だが、そのときは、なかまはずれにされるだろう。どちらの道をえらぶか、それはおまえが考えることだ」











   ヤクーバは弱ったライオンを殺すことはせず、手ぶらで村に帰りました。そのためヤクーバは戦士にはなれず、与えられた仕事は村はずれで牛の世話をすることでした…。

   この絵本が出版された1990年代半ばは、アフリカで内戦や大虐殺がくり返されていたころです。フランス人の絵本作家テイエリー・デデューは、殺戮の悪循環を断つために、「殺す勇気」ではなく、「殺さない勇気」を持ってほしいとアフリカの人びとに訴えたかったのだとおもいます。