2011年9月12日月曜日

乱読のすすめ5-重松清「季節風」




  いまから10年少しまえ、中学生の次男が学校でいじめにあっていたとき、重松清さんの小説「ナイフ」(坪田譲治文学賞受賞)を読みました。いじめに遭遇した子どもとその父親のくるしみをえがいた作品です。父親としてなにをすべきか、教えられました。

   重松さんの小説は、どれも孤独で絶望的なたたかいをつづける人々をいとおしむ視点がつらぬかれていて、重いテーマでも清々しい読後感があります。


   短編小説集「季節風」(春、夏、秋、冬、全四巻)もいい。
   ひとの「想い」を大事にした、飾りけのない良質な作品がおさめられています。

    昔の文豪の短編小説は、私小説的すぎたり、観念的すぎたり、他人にはどうでもいい話もたくさんありますが、「季節風」の短編は、「普通の人々の小さくて大きな世界」を平易に優しくえがきだします。どの作品も、一枚のきれいな水彩画をみているようです。

    そのなかの一つ「サンマの煙」(秋編)は、父の転勤でいやいや漁村に引越してきた、都会育ちの小学四年生の少女と、漁師の父を海で亡くし親戚にあずけられているエツちゃんのこころが通いあうまでのものがたり。雨の中、嵐で海が時化(しけ)て帰ってこない船の無事を一緒に祈るうちに、どちらかともなく二人は手をつないでいました。大漁祈願のお祭りでは、ぴょんぴょんはねながら、おみこしをかつぐ二人…。
   子どものころ、友だちができたときのうれしさはこういうものだったと、なつかしくなります。