2012年9月14日金曜日

乱読のすすめ62-あさのあつこさんの時代小説

映画「バッテリー」 原作あさのあつこ









   池波正太郎の「娯楽性」、藤沢周平の「凛々(りり)しさ」、司馬遼太郎の「人間劇場」…いい時代小説は、時空を超えて心に響くものがあります。
   それは作家の腕前だけでなく、時代小説という現代と距離をおいた「舞台装置」が、余計な雑念を取り払い、人間の悪や正義や哀しみをより純化し、より増幅して映し出すからかもしれません。

   ところが最近の時代小説はどうもつまらない。そもそも人間の描き方が浅いせいか、せっかくの「舞台装置」を通しても、なんの増幅効果もうまない。べつに時代小説にしなくても、現代小説でも私小説でもいいのではないか。それとも、歴史ファンを取り込むことだけが目的なのか。
   そんな失望感を吹き飛ばしてくれたのが、あさのあつこさんの時代小説でした。











  あさのあつこさんといえば、大ベストセラー「バッテリー」の作者。いまは児童文学だけでなく、時代小説でも良質な作品をうみだしています。
  最新作「花宴」(朝日新聞出版)もグッときますが、「東雲(しののめ)の途(みち)」(光文社)も傑作。サスペンス風の展開のなかで、人間の心の闇に光があてられていきます。
   「バッテリー」も、少年の心理描写が卓越していましたが、この作品も人間の葛藤を的確な言葉で表現しています。
   あさのさんの時代物はこれからも進化するでしょう。ぜひご一読を。