2012年8月20日月曜日

乱読のすすめ60-自らを罪するの弁


絵 あべ弘士










   日本が敗戦をむかえた1945年の8月23日、朝日新聞は「自らを罪するの弁」という社説をかかげ、国民に真実を伝えず戦争に突入させた責任について謝罪しました。
   さらに同年11月7日には「国民と共に起たん」という社告を出し、今後は「国民の機関」としてはたらくと宣言しました。あれから67年…。

   昨年来、「朝日」「読売」などの大新聞は、消費税増税を求める異常な大キャンペーンを続けてきました。国会で民主、自民、公明の3党の賛成で増税法案が可決され、少しは自粛するのかと思ったら、8月19日の「朝日」の社説をみて驚きました。表題は『社会保障改革-孫の顔を思い描けば』。以下、その抜粋です。

   年金生活を送る皆さん。
 お盆で、久しぶりに子どもや孫の顔をみて喜んだ方も多いのではないでしょうか。
 でも、子育て真っ最中の息子や娘から「いまの年金は高すぎる。私たちは損ばかり」とか、「病院に行ったら、窓口負担をもっと払って欲しい」と言われたら……。
 (中略)
 いま、日本社会はそんな難しい局面にあります。
 高齢者に厚く、現役世代に薄い日本の社会保障は、少子高齢化が進むなかで見直さざるをえません。世代間でどうバランスをとればいいのでしょう。
 国会で消費税の増税が決まった後、「社会保障の効率化や切り込みが不十分だ」という意見が目立っています。
 (中略)
 年金額の引き下げや窓口負担増に敏感になるのは、よくわかります。もう自ら働いて稼ぐのは難しい。病院に通う回数も多くなりますから。しかし、子や孫の生活も考えてみましょう。リストラや給与削減、住宅ローンや教育費で苦しんでいないか。その割に税金や保険料の負担が重くないか。国の借金をこれ以上増やすと、孫の世代に大増税が必要になるのではないか――。
 (中略)
 まずは自分たちの負担分を少しでも増やす。そのうえで、年齢にかかわらず所得と資産に応じて負担し、必要な給付は受けられるような制度にする。そう進むべきだと思いませんか。 

   世代間対立をあおって社会保障削減と消費税増税を同時にすすめてきた政府の宣伝とまったく同じ内容です。「所得と資産に応じて」というなら、なぜ逆進性の消費税なのか。論旨のデタラメさもふくめ、ここまでくると「大本営」発表の宣伝係になり下がったと言われても仕方がありません。

   さらに4面の「波聞風問-正味増税の時代が来た」では、原真人・編集委員が野田首相の消費税強行を大評価。その「歴史的意義」として、国民に不人気な消費税増税を先送りしなかったこと、減税とセットでなく正味の増税であることなどを挙げています。要するに、国民に痛みを強いたことがエライと褒めているだけ。大新聞が、権力にたいする批判精神を忘れ、政府の「チョウチン持ち」をする姿は醜悪のきわみです。

2008年 朝日文庫










   ところで、気になるのは、67年前、「朝日」は、本当に反省したのかということ。
   冒頭にあげた社告「国民と共に起たん」にはこう書かれています。
   『…開戦より戦時中を通じ幾多の制約があったとはいえ、真実の報道、厳正なる批判の重責を十分に果たし得ず、ついに敗戦にいたり、国民そして事態の進展に無知なるまま、今日の窮境に陥しめた罪を、天下に謝せんがためである』(下線は大門)

  たしかに、当時、軍部に逆らうことができない「幾多の制約」があったことは事実でしょう。しかし、それだけが真実を報道しなかった理由なのか。すべてが軍部の抑圧のせいだったのか。
   「朝日」のなかにすすんで軍部に協力しようとした人間は皆無だったといえるのか。…いまの「朝日」を見ていると、そんなことを考えてしまいます。