2012年4月20日金曜日

乱読のすすめ52-「トスカーナの花野」


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   乱読のすすめ15でご紹介した93歳の日本画家・堀文子さんの画文集。ことばはいさぎよく、絵には澄みきった美しさがあります。
   イタリアの盲目のテノール歌手、アンドレア・ボチェッリの出身もトスカーナ地方。ボチェッリのカンツォーネなど聴きながらこの画集をめくると、イタリア旅行をしている気分になれるかも。
  
   (本文「トスカーナの春」より)

   “ 齢七十を超した今、残り時間は少ない。幸い私は振り分け荷物で一人旅のできる丈夫な足腰をまだ持っている。様々な付き合いから席をはずして義理を欠いても、許される歳になった。老年万歳である…。1988年の3月、イタリア語を学ぶひまもなく、無謀にも見知らぬ国の暮しに胸をときめかせ旅立った… ”

  “ トスカーナへの道で見た風景は目を疑うほどの美しさだった。…驚いたことに、何時間見続けても視界のなかに下品なものがただの一つもないのだった。ずたずたにされ、荒廃した日本の風景のみじめさからみれば、ここは天の楽園のように見える。田園を破壊せず、美しい風景を残しているこの国の文化の奥深さが、まず私を圧倒する。同じ戦争をした民族だというのに”
   
   “ この道のはては天国に通じているのかもしれないと、ふと思う。ここは中世の野か。万葉の野か。古代のままの無垢な田園である。私の魂は、はるか古代のふるさとに還ったような安らぎに包まれ、この美しい春のなかに溶け込んでいくのだった”